◆彼の地に生きる人々の強さと優しさと ◆被災地バムの人々の暮らし



 2006年6月。日本だけでなく世界中がワールドカップの熱狂の渦にある中、僕は生まれて初めて、イラン・イスラム共和国を訪れることになった。
  イラン訪問の目的は、悠久のメソポタミア文明の遺跡を観光することではなく、SNS国際防災支援センターの副理事長として(この時はまだ就任していなかったが)、理事長である大久保のサポートのためだった。
  サポートと言えば聞こえはいいが、国際開発援助NGOのイラン現地代表を務めていた大久保と違い、僕はイランを初めて訪問したばかりの一外国人に過ぎない。どこまで手伝うことができるのか不安は大きかったが、大久保の邪魔にならないようにすることが、最大の「サポート」であると、自分を無理やり納得させ、先に現地入りしていた大久保を追って、イマム・ホメイニ国際空港に降り立ったのだった。

 率直に言うと、イランに行くことを周りの人に告げた時、そのほとんどがネガティヴな意見だった。イランとイラクの区別さえついていない人も多かった。大学時代、中東の歴史や政治をちょっとばかりかじっていた僕にしてみれば、そうした意見をナンセンスだと笑い、イランとイラクの違いについて語ることもできたろう。しかし、机上の学問と実際に訪れることはまったく違う。独特の文化で知られるイスラム教、国際舞台でとかくネガティヴに報道されることが多い国、何よりも僕はペルシャ語がまったくわからない。実際に不安だったのは、他ならない僕だったのかもしれない。

 結論から言えば、初めての10日間のイラン訪問は、僕や周りの人が心配するようなことは何1つなかった。特に、治安については、僕がこれまで訪れた外国の中でも、1番良かったと言ってもいい。
  例えば首都テヘランで、地下鉄に乗ったのだが、日本と同様に居眠りをする人が多かったことに驚かされた。外国とくに一昔前のニューヨークなぞは、地下鉄で居眠りしようものなら泥棒されても仕方がない、だいたい地下鉄で居眠りをするなんて日本人くらいだという話を聞いたことがあるが、誤解を恐れずに言えば、イランは日本と同じくらいに治安がいいと言えるのではないだろうか。
  また、イランの市井の人はとても人懐っこい。道を歩いていると、「どこから来た?」「日本人か?」と拙い英語で、時にはペルシャ語のまま話しかけてくる。
  特にワールドカップの時期とあって、どこに行っても、まずサッカーの話題から始まることが多かった。「イランは勝てると思うか?」「日本はどこまで勝ち進めると思う?」etc
  一般の大人でさえこの調子なので、子どもともなるともっと大変だ。大きな瞳をくりくりさせながら、笑顔でとにかく話しかけてくる。なかなか離れようとしない。ペルシャ語なので、何を言っているのか分からないが、とにかく楽しそうに笑っている。
僕としては、ボディランゲージでかれらの笑いを誘うことが、唯一のコミュニケーションだった。

そうした人々の明るさや人懐っこさは、2003年末の大地震で壊滅的な被害を受けた、バムの町でも変わることはなかった。大地震から約3年が経過したにもかかわらず、いまだに寸断された道路や、崩壊した建物が残っていることに驚かされたが、そこでたくましくも、決して明るさを失わずに毎日を生きている人達がいた。
  そんなかれらでも、大地震のことを語るとその表情に暗い影が差す。僕たちが今回バムにやってきた最大の目的は、大地震の被害を受け、今もなおその地で暮らす人々の生の声を集めること。そして、それらをまとめて、大地震の恐ろしさや失うものの大きさ、防災の備えの大切さを訴えていく「防災教育ビデオ」の製作のためなのだ。
  正直に言えば、仕事のためとはいえ、かれらが経験した大惨事のことを聞きだし、それにビデオカメラを向けることに躊躇いを感じたりもした。でも、「防災教育ビデオ」の趣旨を説明すると、かれらの方がむしろ真摯にかつ積極的に、自らの経験を語ってくれたのだ。
 
  かれらが暮らす仮設住宅での撮影を終え、僕たちが車に乗り込むまで、ずっと笑顔で手を振り続けてくれた子どもたち。それを優しくあやしながらも、地震後の生活を守り抜いてきた母親。そして、「防災教育ビデオ」の趣旨に賛同し、協力を約束してくれたテヘランの官僚。かれらには地震後をたくましく生き抜いてきた強さと、悲劇を繰り返して欲しくないという想いを感じることができた。
  昨今の核開発問題などで、ネガティヴに報道されることが多いイランではあるが、そこに暮らす人々の強さと優しさは、実際に現地を訪れ、接してみなければ分からなかっただろう。
  SNS国際防災支援センターの目的の1つは、防災・減災文化の普及だ。それに加えて、彼の地に生きる人々の強さと優しさと、そしてたくましさを伝えることができればと思っている。 

SNS国際防災支援センター 副理事長 宮下貴広


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